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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)291号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否を判断する。

1 成立に争いない甲第二号証(昭和六一年八月二〇日付け手続補正書中の明細書。以下「明細書」という。)及び第四号証(昭和六二年一一月二八日付け手続補正書)によれば、本願発明は左記のような技術的課題(目的)、構成及び作用効果を有するものと認められる(別紙図面一参照)。

(一) 技術的課題(目的)

本願発明は、対象となる物体と光学系との距離を測定することによつて焦点調節を行う、自動焦点調節法に関する(明細書第一頁第一六行ないし第一八行)。

自動焦点調節を行うために光ビームを物体に照射し、その反射光を利用して物体との距離を測定する方法に関して、種々の方法が考案されているが、いずれも複雑な光学系を必要としたり高精度を得られない欠点があつた。すなわち、非点収差を有する光束を発生させるために円筒レンズを用いる技術は既知であり(引用例1参照)、ホログラムを用いて非点収差を有する光束を発生させる技術の提案もなされている。しかしながら、円筒レンズやホログラムを製造することは面倒であり高価になると共に、ピント検出の感度を簡単に調整できない欠点がある。本願発明の目的は、簡単な構成によつて、高精度の焦点合わせを行うことができる自動焦点調節方法を提供することにある(同第一頁第一九行ないし第二頁第一七行)。

(二) 構成

本願発明は、非点収差を利用した焦点検出方法において、物体と光検出器間の第二光路中の、非平行光束(集束光あるいは発散光)の光路中に、平行平面板(以下「ガラス平面板」という。)を光軸に傾斜させて配置したことを特徴とする(同第二頁第一八行ないし第三頁第一行、昭和六二年一一月二八日付け手続補正書第三頁第一行ないし第三行)。

別紙図面一の第1図は、本願発明を実施する自動焦点調節装置の光学系の構成を線図的に示したものであつて(明細書第三頁第三行及び第四行)、レーザ光のような平行光束4をビーム拡大レンズ5で拡げ、ハーフミラー6により反射させて、ある物体1の表面にレンズ2を用いて集束するのであるが、この集束される光は、後記の方法によつて非点収差を与えられているものである。物体1で反射された光は、レンズ2により再び集束され、ハーフミラー6を透過して検出器3に集束する。このとき、検出器3上の像の形が、非点収差によつて、物体1とレンズ2の間の距離に応じて変化するので、これを分析して物体1とレンズ2との距離を測定し物体1あるいはレンズ2を移動させて、自動的に焦点を調節し得るのである(同第三頁第九行ないし第二〇行)。

第2図に示されているように、非点収差には子午像面10と球欠像面11があり、各面の位置は光学系によつて決定される(同第四頁第一行ないし第三行)。第3図に示されているように、物体1が子午像面10あるいは球欠像面11にあるときは、物体1上の像(したがつて、検出器3上の像)はそれぞれ線分となつて互いに直交し、物体1が子午像面10あるいは球欠像面11の前後にあるときは、光束の断面は楕円形になる。そして、子午像面10と球欠像面11の中間に、光束の断面がほぼ円形になる面12があり、これを最良結像面と呼ぶ(同第四頁第三行ないし第一六行)。

光像の変化をとらえる検出器3として、例えば第4図に示されているように、同一平面に四つの受光領域A~Dを持ち、各領域に入射する光量を別々に検出するものが考えられる。検出器3の中心を光学系の光軸と一致させておけば、物体1面が子午像面側にずれているときはa、球欠像面側にずれているときはcに示されているような楕円形像ができ、A・C領域に照射される光量とB・D領域に照射される光量との間に差が生ずる。一方、最良結像面12においては円形像が形成され、A・C領域に照射される光量とB・D領域に照射される光量とがほぼ等しくなる(同第四頁第一七行ないし第五頁第九行、昭和六二年一一月二八日付け手続補正書第三頁第一八行及び第一九行)。

第5図は、検出器3の出力信号を処理する回路のブロツク図を示したものであつて、受光領域A~Dの出力A~Dが供給される差動増幅器23の出力は(AプラスC)マイナス(BプラスD)を表すものとなり、この出力がレンズ駆動部24に供給される。レンズ2が駆動されて物体1との距離が変わると、検出器3上の像が第4図に示されているように変化し、差動増幅器23の出力(AプラスC)マイナス(BプラスD)は、aの状態においては正、cの状態においては負、bの状態においては零となる。したがつて、第5図に示されている系には帰還がかかるので、これが負帰還となるように構成すれば、レンズ駆動部24は、物体が最良結像面12にきたとき(すなわち、第4図bの状態)停止する。望むならば、差動増幅器23にオフセツトを設けることによつて、(AプラスC)マイナス(BプラスD)があるレベルになつたときにレンズ駆動を停止させることも可能である(明細書第五頁第九行ないし第六頁第一〇行)。

第6図には、(AプラスC)マイナス(BプラスD)の値と、レンズ2から物体1までの距離との関係が示されている(同第六頁第一一行ないし第一二行)。

以上のようにして、物体1を光束の子午像面と球欠像面との間の所定の位置に保つことができるが、これは物体1とレンズ2との距離を一定に保つことにほかならないから、自動焦点調節に利用することができる(同第七頁第八行ないし第一二行)。

本願発明における非点収差を発生させる方法は、第7図に示されているように、光学系に、光軸に対して傾いたガラス平面板51を挿入するものであつて、平面板51の傾きを変えることによつて非点収差の大きさを容易に変化させ得るので、装置全体の感度を変えることも可能である(同第八頁第六行ないし第一五行、昭和六二年一一月二八日付け手続補正書第三頁第一三行及び第一六行)。

第4図に示されている検出器の代わりに、第8図に示されているような二分割された検出器を用いることもでき、AマイナスDを求めれば第4図に示されているものと同じ作用を奏する(明細書第九頁第三行ないし第八行)。

ガラス平面板51を傾けて配置することによつて非点収差を発生させる原理は、左記のとおりである。第9図はレンズ60から出射する集束光の光路中にガラス平面板51を傾けて配置したものであり、第10図はレンズ60とガラス平面板51の位置を逆転させたものである。第9図に示されているような方向に傾けたガラス平面板51に集束光を入射すると、光軸の下側の光線61´が光軸の上側の光線61´´よりも大きな屈折を受け、集光点pは光軸の下側にy変位した位置に形成される。また、光線61´と61´´は、ガラス平面板51を出射するとき(それぞれの入射光と平行ではあるが)位置ずれを生じているから、本来は点Qに集光すべきであるのに、点Qよりも右側にx変位した位置に集光する。このようにガラス平面板51は、集光点Qを、光軸右方向にx、光軸下方向にy平行移動させる作用を果たす。一方、光軸の上から見た光路(すなわち、光軸を含み紙面に垂直な面上においてレンズ60から出射する光路)については、ガラス平面板51による屈折をほとんど無視し得るから、ガラス平面板51に入射した以降の光束は、二点鎖線によつて示されているように、ほぼ点Qに集光する。そこで、p、Qの各点を通つてレンズ光軸に垂直な平面をc、aとし、平面aと平面cとを垂直二等分する平面をbとすると、集光点p及び集光点Qに達する二つの光路のずれによつて、各平面における光像は、平面bにおいては円形状、平面a及び平面cにおいては互いに直交する線分となる。また、第10図においてはガラス平面板60へ入射する光61は発散光であるから、光軸より上側の光線61´´が光軸より下側の光線61´よりも大きな屈折を受け、集光点pは光軸の上側に形成される(同第九頁第九行ないし第一一頁第一〇行)。

このように、ガラス平面板を光軸に対し傾斜させて配置し、ガラス平面板に集束光あるいは発散光を入射することによつて、光軸上を円形状の結像位置から一方向に進めば、結像は縦長の楕円形から縦方向の線分に変化し、他方向に進めば、結像は横長の楕円形から横方向の線分に変化する(同第一一頁第一二行ないし第一八行)。

以上のとおり、本願発明の基本原理は、光源と光検出器との間の、非平行光束の光路中に、ガラス平面板を光軸に傾斜させて配置することを基本とし、光検出面上に非点収差に基づく光像を形成し、物体の変位に関連した右結像パターンの光量分布を検出する点に存する(同第一四頁第一二行ないし第一七行)。

(三) 作用効果

本願発明は、容易に製造できるガラス平面板による非点収差を利用するので、構造が著しく簡単になる。のみならず、ガラス平面板の傾きあるいは入射光の傾きを変えることによつて非点収差を変化させ、焦点調節の感度を変えることが可能であるとの作用効果を奏する(同第一五頁第六行ないし第一〇行)。

2 一方、成立に争いない甲第五号証によれば、引用例1記載の発明は「動いているデータキヤリア上に読取光ビームを集束させる装置」に関するものと認められるが、同引用例に審決認定の技術的事項が記載されていることは当事者間に争いがない。

3 相違点<1>について

そして、前記認定の本願発明の構成(別紙参考図面の第1図c参照)と引用例1記載の発明の構成(別紙参考図面の第2図参照)とを対比すると、両者は、「光源OからハーフミラーM、対物レンズLを経由して物体Dに入射する光学系」と「物体Dにおいて反射され対物レンズL、ハーフミラーM、ガラス平面板Pあるいは円筒レンズCを経由して検出器Kに至る光学系」とを有する構成において同一であることが明らかである。

もつとも、本願発明の構成を示す別紙参考図面の第1図cにおいては、光源Oから物体Dに至る光学系がハーフミラーMにより屈折され、物体Dから検出器Kに至る光学系がハーフミラーMを透過しているのに対し、引用例1記載の発明の構成を示す別紙参考図面の第2図においては、光源Oから物体Dに至る光学系がハーフミラーMを透過し、物体Dから検出器Kに至る光学系がハーフミラーMにより屈折されており、この点において両者の構成が相違していることも明らかであつて、この点を審決は「反射光に対しては逆の関係になつている」と表現しているものと解される。

しかしながら、照査すべき物体Dに対する入射光を、本願発明のようにハーフミラーMにより屈折させて物体Dに到達させるか、引用例1記載の発明のようにハーフミラーMを透過させて物体Dに到達させるかによつて、照査の作用効果において何らかの相違が生ずることを認めるに足りる証拠はない。また、照査されるべき物体Dからの反射光を、本願発明のようにハーフミラーMを透過させて検出器Kに到達させるか、引用例1記載の発明のようにハーフミラーMにより屈折させて検出器Kに到達させるかによつて、検出の作用効果において何らかの相違が生ずると認めるに足りる証拠がないことも同様である。

この点について、原告は、引用例1記載の発明において光源Oの位置と検出器Kの位置とを入れ替えると円筒レンズCが光源OとハーフミラーMとの間に配置されることになつてしまうと主張する。しかしながら、審決は、「光源から対物レンズに向かう光路」がハーフミラーMによつて屈折されているか透過しているかを問題にしていることからうかがわれるように、光学系を構成する個々の部材の位置を問題にしているのではなく、前記の「光源OからハーフミラーM、対物レンズLを経由して物体Dに入射する光学系」と「物体Dにおいて反射され対物レンズL、ハーフミラーM、ガラス平面板Pあるいは円筒レンズCを経由して検出器Kに至る光学系」の、それぞれの位置ないし態様を問題にしているものと解すべきであるから、原告の右主張は失当である。

したがつて、この種の装置においては光源Oの位置と検出器Kの位置とは相対的なものであつて相違点<1>は単なる設計事項にすぎないとした審決の判断に誤りはない。

4 相違点<2>について

前掲甲第五号証によれば、引用例1記載の発明は円盤レコード又はテープのような動くデータキヤリアに光ビームを集束させて記録されている情報を読み取る装置に関するものであるが(第一頁右下欄第二行ないし第六行)、そのような装置においては反射された光ビームにより検出器上に結ばれる光点の安定度が絶対に必要であるところ(第二頁左上欄第二行ないし第四行)、引用例1記載の発明は右課題を非点収差を有する光学装置を用いることによつて解決したものであると認められる(第二頁左上欄第五行ないし第一一行)。

そして、前掲甲第五号証によれば、引用例1記載の発明の特許請求の範囲には、ハーフミラーMと観測面Kとの間の光路に配設されるべき部材について「ビームのうちの一方だけにより透過されるように前記一方のビームの光路中に配置される非点収差光学装置」と記載され、また、発明の詳細な説明には、「軸2の上には光学装置Cが挿入される。この光学装置によつて、反射ビーム4の光路に存在する光学系を非点収差を持つ光学系にすることが可能となる。このような光学装置は円筒レンズによつて作ることができる。この円筒レンズの軸はたとえばOx軸に平行になるようにされる。光学装置すなわち円筒レンズCは、平面F内でA点の一方の側をOy軸に平行に延びる直線分26を点光源Oに関連させる効果を持つ。ほぼ円形のスポツト9、5は反射ビーム4によつて半透明鏡Mと円筒レンズCの上にそれぞれ描かれるものである。スポツト5の直径6、7はOx軸、Oy軸にそれぞれ平行である。直径6の両端を通る光線60は軸2上のB点で焦点を結んだ後、A点に線分26を投影する。直径7の両端を通る光線70はA点に焦点を結ぶ。」(第二頁右上欄第一五行ないし左下欄第一〇行)、及び、「本発明の主な実施の態様を列挙する。1 特許請求の範囲に記載の装置において、前記非点収差光学装置は集束円筒レンズにより構成されてなる装置」(第三頁左下欄第一八行ないし右下欄第二行)と記載されていることが認められる(別紙図面二参照)。

右記載によれば、引用例1記載の発明において軸2に挿入される円筒レンズである光学装置Cは、反射ビーム4が通る光学系に非点収差を持たせる部材の一態様であり、引用例1記載の発明が要旨とする「非点収差光学装置」とは、反射ビーム4が通る光学系に非点収差を持たせるものであることのみを要件としていると解するのが相当であつて、これを原告が主張するようにレンズ作用を有するものに限定すべき必然性はない。

一方、引用例2の図1に、ガラス平面板51に光軸が傾斜した光束Lが入射すると光束の子午成分による焦点と球欠成分による焦点とが光軸上において前後に分離することが図示されていることは原告も自認するところであるから(別紙図面三参照)、引用例1記載の発明の「非点収差光学装置」としてガラス平面板を採用することは、当業者ならば容易に予測し得た事項であるというべきである。

この点について、原告は、ガラス平面板は傾斜を変えるのみで非点収差が変化するから検出器の感度調整が容易であるとの作用効果の顕著性を主張する。しかしながら、成立に争いない甲第六号証によれば、引用例2にはガラス平面板の非点収差がその角度に依存することが記載されており(第三頁右欄第二七行ないし第三五行)、しかも右記載は、光束がガラス平面板を通過する場合の収束特性一般として説明されているのである(第三頁右欄第二四行ないし第二七行)。したがつて、原告主張の前記作用効果が右収束特性一般に起因することは当業者にとつては自明の事項と考えられるから、前記作用効果は引用例2の記載から容易に予測し得た範囲内のものといわざるを得ない。

なお、原告が本願発明が奏すると主張する作用効果(一)及び(二)はガラス平面板を採用することに伴つて当然に予測し得べきものであるし、作用効果(四)は本願発明の構成を示す別紙参考図面第1図cにおいてはともかく同図aあるいはbにおいては奏するものとは考え難いから、原告の右主張も採用できない。

したがつて、相違点2に係る本願発明の構成は容易に予測し得たとする審決の判断にも誤りはない。

5 以上のとおりであるから、本願発明は引用例1及び引用例2に記載されている技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする審決の認定及び判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却することとする。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

イ 光束を対物レンズにより集束させて、光スポツトを対象となる物体表面に投影し、その反射光を前記対物レンズにより集光して、物体表面上の光スポツトの像を少なくとも二個の受光領域を有する光検出器に結像させ、この光検出器からの出力信号により自動的に焦点調節を行うに当たつて、

ロ 第一光路に沿つて光源からの光を放射させ、この光源からの光束を、反射により前記第一光路と交わる第二光路の一つの方向に差し向けて、前記第二光路上の前記対物レンズに入射させ、

ハ 前記物体表面における反射光の少なくとも一部を、前記対物レンズにより集光した後、前記第二光路に沿つて前記光検出器に導き、

ニ 前記物体と前記光検出器との間の前記第二光路中の、非平行光束の光束中に、平行平面板(以下「ガラス平面板」という。)を、光軸に傾斜させて配置すると共に、

ホ 前記ガラス平面板によつて生ずる非点収差の第一の焦線と、この第一の焦線に直交する第二の焦線上に沿つて、前記受光領域をそれぞれ配置したことを特徴とする

自動焦点調節法(別紙図面一参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面一

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別紙図面二

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別紙図面三

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参考図面

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